セントジョーンズワートの特徴
- 毎年6月頃に斑点のある、鮮やかな黄色い花が咲く
- キリスト教とかかわりが深く、聖ヨハネと結びつけられる
- 抑うつ症状に活用され「サンシャインサプリメント」と呼ばれる
セントジョーンズワートは、ヨーロッパ、中央アジアなどを原産とするオトギリソウ科オトギリソウ属の多年草です。主にヨーロッパに自生し、のちにアメリカへ渡って野生化しました。
セントジョーンズワートはキリスト教との関りが深く、聖ヨハネの日(6月24日)に収穫すると最も薬効が強いといわれています。
植物的な特徴
草丈30~80㎝に育つハーブで、地下茎を伸ばして群落する習性があります。茎は直立し、よく枝分かれして茂ります。1.5~3cmの楕円形をした葉が対生し、葉全体には穴が開いたように見える白い小さな腺点と黒い点があります。
6月~8月になると、枝先に集散花序(最初の花が枝先につき、その下に側枝を出して別の花がつく)の、色鮮やかな黄色い花を咲かせます。花弁は5つで、花の中心部分から多数生える雄しべが特徴的です。セントジョーンズワートは一日花で、花からはレモンのような香りがします。
効果・効能
セントジョンズワートの主な働き
気分の落ち込みがある時に活躍
セントジョーンズワートは抑うつや季節性感情障害(SAD)に効果的なハーブとして知られており、沈んだ心に明るさをもたらすことから「サンシャインサプリメント」と呼ばれます。
脳内のセロトニン濃度を高めて抗うつ作用を強めるため、心労、更年期や生理時のうつ、悲しみや絶望などの感情があるときに効果を発揮します。
この作用の仕組みは諸説ありはっきりしていませんが、セントジョーンズワートに含まれる成分による働きと考えられています。主に軽度~中度のうつに用いられます。
緊張をほぐして不眠や腹痛などを和らげる
神経の興奮を抑える効果(鎮静作用)もあり、精神を安定させるため神経性の頭痛、不眠などにも有効です。筋肉の緊張を和らげ、生理痛やおなかの痛みを鎮めたい時にも良いでしょう。
痛み止めに使われることもある
また、セントジョーンズワートの成分を抽出したオイルは、外傷や火傷の時の外用薬として用いられます。含有成分のヒぺリシンには鎮痛作用があり、筋肉痛や関節痛にも良い効果があると考えられています。
その他、消化不良、咳などにも良いとされます。
うつ、不安、不眠、更年期や月経時の気分の落ち込み、月経不順など
主な作用
- 抗うつ作用
- 抗菌・抗ウイルス作用
- 鎮静作用
- 鎮痛作用
- 収れん作用
- 抗炎症作用
禁忌・副作用
- 妊娠中の人や子供、放射線治療中の人は使用に注意。
- 薬を服用中の場合は使用を避けるか、かかりつけの医師に相談してください。
- 光感作作用があります。
安全性・相互作用
相互作用 | クラスC…相互作用が起こることが知られているハーブ(薬物代謝酵素誘導) |
安全性 | クラス2d…色白の人は使用中に日光の光を浴びないこと。 |
セントジョーンズワートの主な使い方
- 地上部(葉・茎・花)
セントジョーンズワートは主にハーブティー、オイルに使用されています。
ハーブティー
不安があるときや神経痛があるときに、ハーブティーを飲むと心身の落ち着きを取り戻せます。味にやや苦みがありますがすっきりした味なので、夜眠れないときにバレリアンなど、他の鎮静系ハーブと組み合わせて飲むのもおすすめです。常用は避けてください。
オイル
セントジョーンズワートの黄色い花を植物油で浸出して作られたオイルは「セントジョーンズワート油」としてアロマテラピーの基材に使われます。ヒぺリシンや赤色色素が抽出されるため、外傷・火傷に用いられるほか、坐骨神経症、捻挫にも利用できます。
薬用
セントジョーンズワートのチンキ剤は、主に外用目的で消炎や鎮痛、かゆみ止めに利用されます。
その他
セントジョーンズワートは草木染にも利用できます。媒染剤や素材によって色が変わりますが、クリーム色~薄茶色の色が発現します。
味・香り
少し苦味があるがすっきりとしていて飲みやすい味。花はレモンの香りが感じられる。
セントジョーンズワートの基本情報
学名 | Hypericum perforatum |
英名 | St. John’s wort |
和名・別名 | セイヨウオトギリソウ(西洋弟切草) |
科名 | オトギリソウ科オトギリソウ属 |
分類 | 多年草 |
原産地 | ヨーロッパ、アジア西部、アフリカ東部 |
使用部位 | 地上部 |
主要成分 | フラボノイド、ヒぺリシン、ヒペルフォリン、タンニン、ハイパーフォリン、ケルセチン |
作用 | 抗うつ、抗菌、抗ウイルス、鎮静、鎮痛、収れん、抗炎症 |
適応 | うつ、不安、不眠、更年期や月経時の気分の落ち込み、月経不順など |
語源・由来
学名のうち属名のHypericumは、古ギリシャ語で「あらゆる病気や悪魔に打ち勝つ」という意味がある。種小名のperforatumは「貫く、孔の開いた」という意味があり、葉の腺点を表現しています。
英名セントジョーンズワート(St. John’s wort)の「セントジョーンズ」とはキリストに洗礼を授けた聖ヨハネのことで、聖ヨハネの誕生日である6月24日ごろに花が咲くことからこの名が付きました。
歴史・エピソード他
伝統的に、聖ヨハネの日にだけ摘むことが許されており、この時期の正午、太陽の力が最大になったときに収穫すると治癒力が最も強いといわれます。
夏至祭にも用いられ、セントジョーンズワートで作られた冠は光の力と結びつけられられたそうです。特に古代ケルトやゲルマンでは、5弁の花は太陽の力を宿すとされ、ドルイド教の聖なるシンボルのひとつ「五星」とも関連付けられました。
古代ギリシャ時代から薬用され、古代ギリシャ・ローマではけいれん、胃腸障害、潰瘍、うつ病・憂鬱、坐骨神経痛などの症状を改善するために使用したそうです。十字軍の聖地エルサレムの戦場では、傷の手当てに使われたといい、中世以降には魔女を無力化し、魔除けの効果があると考えられました。また、葉にある斑点はキリスト教において「十字架にかけられた5つの傷痕」とみなされました。
ヨーロッパ原産のハーブですが、アメリカにも渡り、ネイティブアメリカンは抗炎症薬や消毒薬、人工妊娠中絶薬として用いたそうです。
日本では10世紀頃に、近縁種のオトギリソウが外傷や打撲の薬として使われていました。貝原益軒の『大和本草』に止血効果が記されているため、セントジョーンズワートと同じような使われ方をしていたことが知られています。