クローブの特徴・形状
- 最も香りの強いスパイスといわれ、花のつぼみを活用する
- 抗菌作用、鎮痛作用に優れる「歯医者さんの香り」
- 「丁字」という名で正倉院にも納められた
インドネシアのモルッカ諸島を原産地とする、フトモモ科フトモモ属の常緑高木で、花の蕾を乾燥させて使用します。別名を「百里香」といい最も芳香の強いスパイスとされています。
高い場所に花が咲くため、昔は作業やぐらを使って収穫が行われたそうで、貴重価値が高まりました。日本ではチョウジ「丁子(または丁字)」と呼ばれています。
植物的な特徴
インドネシア、ザンジバル、スリランカ、モーリシャス、マダガスカル、コモロ、ペナン、ドミニカなどの熱帯地方で良く育ち、樹高は10mから15mほどになります。葉は先の尖った楕円形の形をしており、黄色い花びらに多数の雄しべがある花が咲きます。
毎年7月~9月、1月~2月(熱帯地域以外では、8月~9月)につぼみを付け、花弁が黄色から紅色を帯び始めた頃に収穫が行われます。
スパイスとして活用するために、収穫後は天日干しまたは50℃以下の火力で乾燥させます。
効果・効能
クローブの主成分であるオイゲノールは、優れた鎮痛作用・抗菌・抗ウイルス作用を持つことで知られています。
そのため、歯痛や歯肉炎など口内トラブルによく用いられており、歯学の領域で活用されることから、クローブの芳香は「歯医者さんの香り」と呼ばれます。
また、局所麻酔の作用があるため、歯の治療に麻酔として利用されることもあります。オイゲノールには抗炎症作用もあり、体の老化防止、動脈硬化などの生活習慣病予防にも役立ちます。
クローブの持つ抗菌・抗ウイルス作用はどの痛みや口腔内の粘膜保護、風邪の症状にも良いとされます。
さらに、消化を促す作用があるため消化不良や胃もたれ、胃腸の痛みや腹痛などに活用されており、泌尿器系を温める効果的です。
その他、腸内ガスの排出や頭痛にも効能があるといわれます。
喉や口腔内の粘膜の炎症、虫歯の痛み、消化不良、胃もたれ、胃痛、腹痛など
主な作用
- 鎮痛作用
- 神経麻痺作用
- 抗炎症作用
- 抗菌・抗ウイルス作用
- 消化促進作用
禁忌・副作用
- 妊娠中の人や授乳中の人は使用を避けること。
安全性・相互作用
安全性 | クラスA…相互作用が予測されない |
相互作用 | クラス2d…定められた分量以上に使用しない |
クローブの主な使い方
- 蕾
クローブは主に香辛料・料理、オイル、薬用に使用されています。
香辛料・料理
クローブは香辛料としてカレーやスープ、オードブル料理に使われるほか、そのまま刺して肉の臭み消しにも活用されます。チャイなどの飲料にスパイスとして加えられることもあり、クローブ単体よりも他のスパイスとブレンドして使います。
相性の良いハーブ・スパイスにはシナモン、オールスパイス、カルダモン、桂皮、ショウガ、バニラ、オレンジの皮、八角、コショウ、レモンなどがあり、クローブは香りが強いため分量を少なめにして利用します。
オイル
クローブから取れる精油成分の「丁子油」はクローブ入りのタバコに使われ、インドネシアでは丁子油を含んだ「ガンドゥン・アロマ・クローブ」と呼ばれる巻きタバコが流通しています。
日本では江戸時代の頃から、クローブを蒸留して作られる丁子油が刀の錆止めに使われています。
薬用
クローブの粉末はアーユルヴェーダ、中国伝統医学などで芳香性健胃薬として用いられるほか、歯のトラブルに痛み止めとして用いらています。
日本薬局方でも健胃に役立つ生薬の1つとして、「丁子」または「丁香」が収録されています。
民間療法では、紅茶に丁子を1本入れて成分を抽出した後(数分後)に飲むと、健胃や駆風に効果があるとされています。
その他
香りが強いため、ポプリやフルーツポマンダーに使われます。香気成分のオイゲノールには防虫作用があり、虫よけにも用いられます。
味・香り
スパイシーかつ清涼感をもたらす独特の香りで、やや薬っぽい味。
クローブの基本情報
学名 | Syzygium aromaticum |
英名 | Clove |
和名・別名 | チョウジノキ、チョウジ(丁子、丁字)、チョウコウ(丁香) |
科名 | フトモモ科フトモモ属 |
分類 | 常緑小高木 |
原産地 | インドネシア(モルッカ諸島) |
使用部位 | 蕾 |
主要成分 | リモニン、コニフェリルアルデビド、タンニン、精油 |
作用 | 鎮痛、神経麻痺、抗炎症、殺菌、抗菌、抗ウイルス、消化促進、抗酸化 |
適応 | 喉や口腔内の粘膜の炎症、虫歯の痛み、消化不良、胃もたれ、胃痛、腹痛など |
語源・由来
学名のうち属名のSyzygiumはギリシャ語のsyzyos「結合したもの」から、 種小名のaromaticumは「香気」のあるという意味だそうです。
英名のCloveはフランス語の「釘(clou)」が基になっています。もともと仏名で「クル・ド・ジローフル (clous de girofle) 」と呼ばれていたものが、英語の音で「クロウジローフル」に変化し、さらに省略して「クローブ」になったそうです。
和名の丁子(チョウジ)は、中国語の「釘子(テインツ)」の略である「丁」に由来しています。
歴史・エピソード他
古代
クローブの原産地で香料の一大産地・モルッカ諸島原産は、紀元前から中国やアジア諸国と香辛料貿易を行っていました。
クローブは主に殺菌・食毒などの用途で用いられていたようで、紀元前3世紀ごろの中国では臣下は皇帝に会う前にクローブをかんで口臭を消したといわれています。
また、ヨーロッパには絹などと一緒に伝えられ、大プリニウス(ローマの軍人・博物学者)の著書『博物誌』にもクローブの記載があることから、1世紀頃にはヨーロッパでもその存在が知られていたようです。
中世
中世にはその香りがペストを予防すると信じられ、実にクローブを刺した「フルーツポマンダー」が魔除けとして流行しました。今でもヨーロッパでは習慣として作られています。
クローブ交易は、中世以降も数世紀にわたり中国によって独占されていました。
しかし、13世紀後半にイスラム商人が勢力を強め、大航海時代にスパイスの争奪戦が始まるとモルッカ諸島はポルトガルとオランダの間で奪い合いになります。
近代
オランダの勝利の後、しばらくモルッカ諸島はオランダの支配下に置かれましたが、各国による植民地でのスパイス栽培が始まると、1770年にクローブの苗木がフランス領であるフランス島(モーリシャス)へ移植されました。
その後、アフリカ東岸のザンジバルに移され、大農園が開かれるとクローブの争奪戦は終焉を迎えます。
日本での歴史
日本には5~6世紀ごろに伝わったようで、正倉院の宝物の1つに「丁子(丁香)」があります。
また、10世紀に丹波康頼が記した『医心方』にも体に芳香をつける薬の一種として丁子の名が記されています。
17世紀後期ごろの「南蛮料理書」にはクローブの粉末を利用した料理が紹介されており、食用として用いられていました。そのほか、丁子油は日本刀の錆止めにも使われているそうです。