ディルの特徴・形状
- 香りが強く魚料理と組み合わせやすい
- 消化を促し、満腹感や腸内ガスを減らす働きがある
- 紀元前4000年代から栽培され、魔除けにも使われた
ディルはセリ科イノンド属の1・2年草で、植物全体に特有の芳香があり、種子や葉をハーブ・スパイスとして用います。ペルシャとインドが原産ですが、早い時期からヨーロッパに伝わっていました。
乾燥した茎葉は「ディルウィード」、種子は「ディルシード」と呼ばれて、どちらにも薬効があります。ハーブのひとつフェンネルによく似ており、魚料理に合うハーブとして知られています。
植物的な特徴
草丈40㎝~80㎝、よく枝分かれした茎に、糸状に細かく裂ける3~4回羽状複葉の柔らかな葉が互生します。
初夏の5月~7月になると、茎先に小さくて黄色い5弁の花を咲かせます。花は複散形花序(茎の先端に枝が複数生えてその先に花が咲く)で、2 ~9 cmほどの大きさになります。
10月頃、花が枯れた後は果実がなり、やや湾曲した楕円形の種子が採れます。種子は、葉よりも強い芳香を持ちます。
効果・効能
ディルには主に消化促進、鎮静、駆風、去痰、利尿、口臭予防、催乳などの作用があります。
ディルの全草は香りの主成分であるカルボンのほか、リモネン・ピネン・ジテンペン・カンファ―などの精油成分が含まれます。これらの成分には口腔内の粘膜を刺激して痰を排出させる働きや、唾液や胃液の分泌を良くする働きがあります。
さらに、腸内の発酵を抑えてガスを排出させる作用があり、鼓腸(満腹感)が気になるときにも効果的です。
さらに、神経の興奮を鎮め気分をリラックスさせるため、不眠にも有効です。リモネンやピネン類には抗菌作用があり、口内の環境を清潔にして虫歯予防や口臭予防にも役立ちます。
また、 アニスやフェンネルと似た作用があるといわれ、古くから母乳の出をよくするために用いられました。ディルには抗酸化力のあるビタミン類(A、Cなど)やミネラル類(亜鉛、カルシウムなど)が含まれます。動脈硬化など生活習慣病予防にも利用できるハーブです。
喘息、胃の不調、不眠、頭痛、腸内ガス、生理不順、催乳、生活習慣病予防など
主な作用
- 抗酸化作用
- 抗菌作用
- 利尿作用
- 駆風作用
- 鎮静作用
- 鎮痙作用
- 通経作用
- 催眠作用
禁忌・副作用
- 妊娠中の使用は避けるようにします。
- 種子を多量摂取すると、胸やけや逆流性食道炎の原因になることがあります。
安全性・相互作用
相互作用 | クラスA…相互作用が予測されない |
安全性 | クラスⅠ…適切な使用において安全 |
ディルの主な使い方
- 全草、種子
ディルは主に料理、ハーブティー、薬用に使用されています。
香辛料・料理
葉茎は魚との相性が良く、特にディルと鮭の組み合わせは定番です。ムニエルやソテー、スープ、マリネ、ドレッシング、サワークリームなどにも加えることができ、ジャガイモや卵、肉の風味づけにも良く使われます。
葉は乾燥すると香りが失われてしまうため、なるべく生で新鮮なうちに使用した方がおいしくいただけます。
種子はスパイスとしてカレーやピクルスなどに加えられることも。ディルを野菜と一緒にビネガーに漬け込めば、その香りを移すことができます。ポーランド料理でよく利用される食材です。
ハーブティー
ディルのティーは消化不良、腸内ガスが溜まっている時、痰がでる時、心を落ち着かせたいときなどにおすすめです。
揮発性の精油成分が含まれるので、お湯で抽出したら飲む前に香りを嗅いでみましょう。種子は紅茶に入れることもできます。
生の茎葉を常温の水に入れてトニックウォーターを作ることもできます。こちらの場合は、輪切りのレモンなどを加えるとフレーバーウォーターにもなります。
薬用
漢方では生薬名を「蒔蘿子(ジラシ)」といい、主に健胃・駆風の目的で使用されます。果実を採取して陰干ししたものを利用し、食べ過ぎ、飲みすぎ、食欲不振などに種子を数粒噛んで飲み込むと良いとされます。
入浴の際に入浴料として入れると疲労回復に役立ち、種子をハーブピロ―にすると安眠効果が得られます。
味・香り
爽やかな香りとやや苦味・酸味のある味
ディルの基本情報
学名 | Anethum graveolens |
英名 | dill、Indian dill |
和名・別名 | イノンド(伊乃牟止)、ヒメウイキョウ(姫茴香)、ジラ(蒔蘿)、ジラシ(蒔蘿子) |
科名 | セリ科イノンド属 |
分類 | 一年草 |
原産地 | ヨーロッパ南部、アジア西部 |
使用部位 | 全草、種子 |
主要成分 | ジラノサイド、ミネラル類、精油(d-カルボン、リモネン、ピネン、カンファ―、ジペンテン、フェランドレン) |
作用 | 抗酸化、抗菌、利尿、駆風、鎮痙、鎮静、通経、催眠 |
適応 | 喘息、胃の不調、不眠、頭痛、腸内ガス、生理不順、催乳、生活習慣病予防など |
語源・由来
属名のAnethumはギリシャ語の古い名前anethonに由来します。anethonはaithein「灼ける」という言葉から来ていると考えられており、種子の刺激性がもとになっています。種小名のgraveolensは「強い臭いのある」という意味です。
和名のイノンドはスペイン語名のイネルド (eneldo) またはポルトガル語名のエンドロが転じたものといわれています。
歴史・エピソード他
ディルの歴史は古く、紀元前4000年代にはメソポタミア南部のシュメール人によって栽培されていました。その後バビロニアやパレスチナを経て古代ギリシャに伝わったといわれています。
セム系言語(アッカド語、バビロニア語、アッシリア語など)では、「シュビット」と呼ばれていたそう。
ディルは税として定められたこともあり、ユダヤ教の文書『タルムード』には、十分の一税をディルの種子、葉、または茎で支払うことと命じた文節があります。新約聖書にも、パリサイ人がディルで税を払ったという記載があります(「マタイによる福音書」23章23節)。
紀元前1550年に成立した古代エジプトの医学書『エーベルス・パピルス』には、薬用植物として頭痛を和らげる作用が記述されています。その後の古代ギリシャ・ローマ時代は、惚れ薬のような使われ方をしており、種子をそっと相手のポケットに入れて、恋の成就を願ったそうです。
中世では、カール大帝が皇帝菜園でディルを栽培するよう命じ、12世紀ドイツのハーブ療法家・聖ヒルデガルトは、ディルに膵臓を強化する働きや鼻水を抑える働きがあると考えました。
日本に渡来したのは江戸時代初期とされています。
魔除やお祝いに使われた
また、ディルの香りには魔除けの働きがあると考えられ、魔法の呪文を解くのにディルを使ったといわれます。
また、女性や子供、新郎新婦に効くと考えられていた為、地方によっては結婚式の際、花嫁が祭壇の前に出る時にディルとマスタードを靴の上に蒔くという習慣がありました。